ひとこと

境内の木 キハダの木

黄色い内皮は胃腸薬・キハダ(黄膚、ミカン科)
 山地の沢沿いの湿った場所に生え、薬用植物として栽培されている。縦に裂ける樹皮はコルク質が厚く弾力があり、これを削ると鮮やかな黄色の内皮が現れる。内皮には苦味があって、健胃薬や外用薬として用いられる。葉をちぎると、ミカン科特有の香りがする。秋、ブドウのような果実が黒く熟し、野鳥が好んで食べる。葉は、美しく黄葉する。キハダ属は主として東アジア温帯のシベリアから台湾に分布し、日本には1種キハダのみが自生。北海道から九州まで広く分布している。 名前の由来・・・樹皮の内皮は、鮮やかな黄色を呈していることから、「黄膚」と書く。「大和本草」(貝原益軒著)には、「その木の皮黄なる故キハダと名ずく、味苦き故虫を殺し腹痛止む」と書かれている。

名称
和名は、樹皮の表皮と内部の木質部との間にある内皮が、鮮やかな黄色であることから、「黄色い肌」の意に由来する。別名は、シコロ、シコロベ、オウバク(黄檗)、キハダが転訛してキワダのほか、内皮に苦味があることからニガキともよばれている。
中国植物名(漢名)は、黄柏という。
分布・生育地

オウバク(生薬) アジア東北部の台湾、朝鮮半島、中国の河北省から雲南省にかけて、またヒマラヤの山地に自生しており、日本では北海道(渡島半島・後志・胆振・日高・石狩)・本州・四国・九州・琉球に分布する。山地に生える。
形態・生態
落葉高木で雌雄異株。樹高は10 - 25メートル、目通り直径30センチメートル 程度になる。葉は、対生葉序で奇数羽状複葉で長さは20 - 45 cmある。小葉は5 - 13枚で、長さ5 - 10 cmの長楕円形、裏は白っぽく、葉縁は波状になる。
花期は5 - 7月ごろにかけて、本年生の枝先に円錐花序を出して、黄緑色の小さな花を多数つける。果期は10月。果実は核果で、直径10ミリメートル ほどの球形で緑色から黒く熟する。核は、柿の種のような形をしている。
樹皮はコルク質で、外樹皮は淡褐灰色で縦に深い溝ができ、内樹皮は濃鮮黄色で厚い。この樹皮からコルク質を取り除いて乾燥させたものは、生薬の黄檗(おうばく)として知られ、薬用のほか染料の材料としても用いられる。
カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハの幼虫が好む食草である。蜜源植物としても利用される。
利用
生薬
オウバク
生薬となる乾燥したオウバク
(丹波市立薬草薬樹公園)
生薬・ハーブ
健胃薬
キハダ樹皮
ベルベリンなど

樹皮からコルク質・外樹皮を取り除いて乾燥させると生薬の黄柏となり、12 - 20年で採取できるようになる。樹皮が厚いほど良品とされる。夏のころ(6 - 7月)、樹液流動の盛んな時期に根際から切り倒して枝を払い、幹や枝の太い部分を1メートル間隔に輪状と縦傷をつけて切れ目を入れ、傷口にくさびを差し込んで樹皮をはぎ取り、外皮を除いて内皮の鮮黄色の部分を日干しして採取したものである。
黄柏にはアルカロイドのベルベリン、パルマチン、マグノフィリンをはじめ、オバクノン、タンニン、粘液質などの薬用成分が含まれており、特にベルベリンは苦味成分と抗菌作用を持つといわれる。主に苦味健胃、整腸剤として、製薬原料として用いられ、陀羅尼助、百草などの薬に配合されている。また、黄連解毒湯や加味解毒湯などの漢方方剤に含まれる。粘液質やタンニンには収斂や消炎作用があり、打ち身や捻挫に外用される。日本薬局方においては、黄柏を粉末にしたものを「オウバク末」として薬局などで取り扱われており、本種と同属植物を黄柏の基原植物としている。
民間療法では、胃炎、口内炎、急性腸炎、腹痛、下痢に、黄柏の粉末(オウバク末)1回量1グラムを1日3回服用する用法が知られている。強い苦味のため、眠気覚ましとしても用いられたといわれている。妊婦や胃腸が冷える人への服用は禁忌とされる。
このほか、打撲や捻挫、腰痛、関節リウマチなどに、中皮を粉末にして同量の小麦粉と合わせて酢でドロドロに練り、布やガーゼに塗って冷湿布にして患部に貼り、乾いたら張り替える。
アイヌは、熟した果実を香辛料として用いている。
サプリメント
海外では、シナホオノキ の抽出物とキハダからの抽出物を合わせたサプリメント製品(リローラ)が販売され、コルチゾールを低下させるとの報告がある。
染料
キハダは、黄蘗色(きはだいろ)ともよばれる鮮やかな黄色の染料で、黄色に染め上げる以外に赤や緑色の下染めにも利用される。なかでも、紅花を用いた染物の下染めに用いられるのが代表的で、紅花特有の鮮紅色を一層引き立てるのに役立っている。なお、キハダは珍しい塩基性の染料で、酸性でないとうまく染め上がらない。このため、キハダで下染めをした後は洗浄を十分にする必要がある。 虫食いを防ぐ効果を期待し、仏教経典用紙の染色にも使われた時代もある。現存する正倉院文書や薬師寺伝来の『魚養経』などは経年によって茶色く変色しているが、染めた直後は墨書された文字を映えさせる効果もある。
木材
キハダの心材も黄色がかっており、木目が明確であるため、家具材などに使用される。ただし、軽量で軟らかいため、あまりにも強い荷重がかかる場所には向いていない。一部では桑の代用材として使用されるが、その場合には桑との区別として「女桑」と表記される。

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