サンショウ(山椒)はミカン科サンショウ属の落葉低木。別名はハジカミ。山地の雑木林などに自生し、若葉は食材として木の芽の名称がある。雄株と雌株があり、春に葉のわきに黄緑色の花を咲かせ、雌株のみ実をつける。葉と球果に独特な爽やかな香りをもち、香辛料に使われる。
名称
和名サンショウの由来は、「椒」の字には芳しい・辛味の意があり、山の薫り高い辛味の実であることから「山椒」の名が付けられたと考えられる。
学名のZanthoxylum は「黄色い木」の意味で材が黄色いことから。また、piperitum はコショウのようなという意で実が辛いことからきている。
別名であるハジカミ(椒)はショウガなどの他の香辛料の別名でもあり、その区別のため古名では「ふさはじかみ」(房椒)、「なるはじかみ」(なりはじかみ、成椒)と呼ばれた。「はじ」は実がはじけることから、「かみ」はニラ(韮)の古名「かみら」の意で辛いことを示す。「ふさ」は房状に実がなることであり、「なる」は実が成るハジカミであることを示す。地方名に、サンシュ、サンシュノキなどがある。
英名は、ジャパニーズ・ペッパー「日本の香辛料」、ジャパニーズ・プリクリィ・アシュ。中国植物名(漢名)は、山椒である。
分布・生育地
原産国は日本であり、北海道から屋久島までと、朝鮮半島の南部にも分布する。各地の山地に分布し、雑木林などの落葉樹林に自生する。北海道では、石狩低地帯を境に、北や東は分布が大きく減少する。乾燥や夏季の日差しに弱く、半日陰の湿潤な地勢を好む。栽培も行われている。
形態・生態
雌雄異株の落葉低木で、樹高は3メートル (m) 程になり、大きなものでは5 mになる。枝には、葉柄の基部に鋭い棘が2本ずつ対生してつき、時に突然変異で棘のない株(実生苗)が稀に発生することがある。棘のない実山椒(雌木)として但馬国の朝倉谷(兵庫県養父市八鹿町朝倉地区)原産の「朝倉山椒」が有名だが、日本各地に棘のない山椒の栽培が見られる。
葉は互生し、奇数羽状複葉[11]。長さ10 - 15cmほど。5 - 9対の小葉は1 - 2 cmの楕円形で葉縁には鈍鋸歯があり、鋸歯の凹みに油点がある。葉の裏は表に比べ白っぽい。葉にある油点は、細胞の間に油が溜まったもので、葉を揉んで潰すと強い芳香を放つ。太陽に透かして見ると透明に見えるので明点ともいう。
花期は春(4月 - 5月頃)で、枝先の葉腋に小さな黄緑色の花が多数開花し、直径5ミリメートル ほどある。雄花は「花山椒」として食用にされ、雌花は若い果実、または完熟したものを利用する。雌花には二本の角のような雌しべが突き出す。
雌株は球果が結実し、果皮に芳香がある。果実は1個から3個の分果に分かれて、直径は5 mm程度。初め緑色であるが、9月 - 10月ごろに赤く熟し、裂開して中から黒い光沢がある球形の種子が出てくる。
なお、実山椒の収穫量は和歌山県が国内生産量の約80%を占めている。和歌山県の有田川町(旧清水町)、紀美野町の特産品として栽培されている「ぶどう山椒」は果実・果穂が大型で葡萄の房のような形でたくさん実るためこのように呼ばれている。
山野の自生個体 雄花
果実と種子 葉と棘
系統品種
アサクラザンショウ(朝倉山椒)
棘のない栽培品種をいう。江戸時代から珍重されていた。実生では雌雄不定でかつ棘が出てくるので主に雌株を接ぎ木で栽培した物を朝倉山椒として販売している。
ヤマアサクラザンショウ(山朝倉山椒)
棘が短い。普通の山椒と朝倉山椒の中間に位置する。山野に自生する品種。
リュウジンザンショウ(竜神山椒)
小葉が卵形で3-5枚と少ない。食用とされ、薬用とはされない。和歌山県竜神地方産。
ブドウザンショウ(葡萄山椒)
アサクラザンショウから派生した系統とされる。小さいが枝に棘がある。樹高が低く、果実が大粒で葡萄の房のように豊産性であるため栽培に適している。雌株を接ぎ木で栽培している。
タカハラサンショウ(高原山椒)
飛騨地方の高原川流域で栽培されている品種でアサクラサンショウやブドウサンショウと比較すると小粒だが香りの良い品種である。
同属異種
サンショウの仲間のサンショウ属は世界の熱帯・亜熱帯および温帯地方に広く分布しており、250種余りが知られている。代表的な同属異種を以下に列挙する。
詳細は「サンショウ属」を参照
イヌザンショウ(犬山椒)
サンショウが芳香を持ち、棘が対生するのに対して、イヌザンショウは芳香がなく、棘が互生する。イヌザンショウの果実は「青椒」と呼ばれて精油を持ち、煎じて咳止めの民間薬に用いられる。中国で「青花椒」、「青椒」と称して果皮を香辛料として利用している。
カラスザンショウ(烏山椒)
サンショウと違ってアルカロイドを含むので、イヌザンショウとともにイヌザンショウ属に入れる場合がある。アゲハチョウ科のチョウの食草になっている。中国で「食茱萸」や「刺椒」と称して香辛料や薬用として利用している
イワザンショウ(岩山椒)
丸葉で光沢がある。葉軸は翼を有し、鰭のように見えることからヒレザンショウとも呼ばれる。南西諸島や小笠原の岩場に自生し、サンショウ同様に香辛料や薬用として用いられる。沖縄方言名:センスルギー。
カホクザンショウ(華北山椒)
中国で「花椒」と称して果皮を香辛料として利用している。
テリハサンショウ(照葉山椒)
しばしば葉の中心線に沿って棘がある。中国で「両面針」と称して薬用にされる。
フユザンショウ (冬山椒)- 別名(フダンサンショウ 不断山椒)
冬でも葉を落とさない常緑低木。葉軸に狭い翼がある。日本では雄株は見られず単為生殖する。接ぎ木の台木として用いられる。中国で「藤椒」と称して香辛料や薬用として利用している。
利用
古くから若葉や果皮は香辛料として使われており、薬用にも使われる。縄文時代の遺跡から出土した土器からサンショウの果実が発見された例もある。
日本における利用
食用
若芽・若葉(木の芽)
木の芽は緑が鮮やかで香りが良いため、焼き物、煮物など料理の彩りとして添えられ、また吸い口として用いられる。使う直前に手の平に載せ、軽く数度叩いて葉の細胞(油点)を潰すと香りが増す。特に筍との相性が良い。また、木の芽を味噌と和えた「木の芽味噌」は、木の芽田楽、木の芽和えや木の芽煮の材料となる。
花(花山椒)
花を漬けた花山椒は、料理の彩り、佃煮、当座煮などに用いられる。
果実
5 - 6月ころのやわらかく未熟な果実(青山椒、実山椒)は茹でて、昆布とともに醤油で煮付けて佃煮にするほか、ちりめんじゃこと混ぜてちりめん山椒とする。常食すれば食欲増進や、消化促進に役立つ。
果皮
9 - 10月ころ、果実の色が緑から黄色に変化したものを採集して陰干ししておくと、果皮が開いて黒色種子が出てくるので、種子を除いて果皮だけを集めたものを「山椒」とよんでいる。
熟した実の皮の乾燥粉末(粉山椒)は、香味料として鰻の蒲焼の臭味消し、七味唐辛子の材料として用いられる。この果皮が一般的に調味料として知られている部位である。乾燥粉末の状態で貯えておくと品質の劣化が激しく、精油が揮発して香りや辛味も大幅に損なわれる。なるべく果皮のまま貯えて使用前にグラインダー(胡椒を粉にする器具)で粉末にするか、密封して冷凍保存すると長期間、鮮度が保たれる。菓子類への利用では、五平餅[27][28]に塗る甘辛のたれや、山椒あられ、スナック菓子のほか、甘い餅菓子の山椒餅、切山椒がある。
その他
木材はすりこ木にする。
日本の東北地方など各地でこれを煮たものを川に流し魚をとる毒もみと呼ばれる漁法があった。宮沢賢治の童話『毒もみのすきな署長さん』の中にもサンショウを利用した違法漁法の話が出てくる。
中国での「花椒」の利用
カホクザンショウ(花椒)の果実
中国では花椒(かしょう、ホアジャオ)と呼ばれる同属別種カホクザンショウの果実の果皮のみ用いる。日本のサンショウとは香りがかなり違う。
四川料理で多用される。煮込み料理、炒め物、麻婆豆腐などに果皮を加えて風味をつける。乾燥粉末を料理の仕上げに加えると、四川料理の特徴といわれる舌の痺れるような独特の風味が得られる。また、五香粉の材料としても用いられる。炒った塩と同量の花椒の粉末を混ぜたものを花椒塩(かしょうえん、ホアジャオエン)と呼び、揚げ物につけて食べる。
薬用
樹皮および果皮は薬としても用いられる。漢方で「花椒」は蜀椒とも呼ばれ健胃、鎮痛、駆虫作用があるとされ、大建中湯、烏梅丸などに使われる。
日本薬局方では、本種および同属植物の成熟した果皮で種子をできるだけ除いたものを生薬・山椒(サンショウ)としている。日本薬局方に収載されている苦味チンキや、正月に飲む縁起物の薬用酒の屠蘇の材料でもある。中国の薬物名としては、花椒(かしょう)や蜀椒(しょくしょう)と称し、トウザンショウやイヌザンショウなどを薬用に使用し、日本のサンショウも代用できる。
果実の主な辛味成分はサンショオール、サンショウアミド、不飽和脂肪酸イソブチルアミド。他に有効成分としてシトロネラール、ジペンテン、フェランドレン、エステル型のゲラニオールなどの芳香精油2 - 4%、シトラールなどを含んでいる。辛みは胃液の分泌を促す健胃作用があるが、サンショオールは川や池に入れて魚を捕る毒流しにも使われる成分のため、食べ過ぎには注意が必要となる。
民間療法では、胃もたれ、消化不良の痛み、胃下垂症、胃拡張症、胃カタル、腸カタル、回虫駆除を目的に、山椒粉末を1回量2グラムを水か湯で1日数回に分けて飲むか、果皮1日量5 - 8グラムを水400 ccで半量になるまで煎じて、1日3回に分けて温かいものを服用する用法が知られている。胃腸を温める効果が強く、胃腸が冷えて痛みや吐き気のある人によいといわれているが、胃腸に熱がある人に対しては使用禁忌とされている。
栽培
実生は果実が完熟する前のものを採取し、果皮を除いて播種する。種子は乾燥してしまうと発芽が悪い。果実の収穫を目的とするときは、雌木を接ぎ木する。
観葉や香りを楽しむものとして苗木は店舗販売ではポピュラーであるが、家庭で大きく育てるのが比較的難しい類の植物である。水はけのいい土質を選び、排水の悪い粘土質の土では根腐れや害病(白絹病)などを起こしやすい。その一方では豊富な水分を要し、水切れすると枯死しやすい。真夏の直射日光には弱く、生育には半日陰の場所が適し、日の当たりすぎる場所では葉が茶色くなって落葉し、一見枯れたようになる。また移植に弱く、根から土を落として植え替えると枯れてしまう。
秋の落葉後、翌年春に芽が出ず枯れ死してしまうことがあり栽培農家では収穫量が増えない悩みの種となっている。自生させれば数メートルに成長し収穫に手間であるため商業栽培では適宜剪定する。兵庫県養父市の朝倉山椒組合では朝倉山椒発祥の地として数年前に(枯れ死しにくい)優良苗の生産に成功し、現在は地元の農家に苗の配布を行って収穫量の増加を目指している。
害虫
アゲハチョウ科のチョウの幼虫の食草でもある。小さな株なら一匹で葉を食べ尽くし、丸裸にされてしまうこともある。
魚獲りに使う植物と魚毒
石鹸のように泡が出るムクロジ、サイカチ、エゴノキなどの「あわ植物」、サンショウ、ヤナギタデのような「からい植物」、柿の渋のような「しぶい植物」が魚毒となり魚を取るのに使われました。
サンショウ(ミカン科)の木の皮を剥いで、大釜に入れ石灰と一緒に煮る。それを潰し団子にして小川や溝のウナギが居そうな所に入れる。しばらくすると土手にウナギが飛び上がった。それ程その団子の汁は辛く、しかも毒ではないので、そのウナギはすぐ食べることが出来た。ウナギをサンショウで捉まえるとは、ウナギとサンショウはナイスカップルです。
魚取り植物は、どのような作用を与えるのでしょうか。魚が死んでしまう植物と気絶して戻る植物がある。毒として使用される植物の化学物質のタイプによる生物活性について「民族植物学」 訳者 木俣美樹男、石井裕子 八坂書房に詳しいです。
ネムノキ(マメ科)の葉・水に浸け石で潰して、手で揉むと白い泡が出る、ムクロジの果皮、サイカチの葉や豆の莢、オニグルミ(クルミ科)の根、ヤナギタデ(タデ科)の葉、ムラサキシキブ(クマツヅラ科)の枝葉。
泡を作るサポニンを成分として持っている植物は多く、「あわ植物」はいずれも魚毒となる。例えば、サボンソウ(ナデシコ科)、アキノキリンソウ(キク科)、ボタンズル(キンポウゲ科)、ツバキ(ツバキ科)・ヘチマ(ウリ科)の種子、ミフクラギ(キョウチクトウ科)、ニシキウツギ、フジウツギ(フジウツギ科)の果実など。
海外ではムクロジ科、キョウチクトウ科、トウダイグサ科、サガリバナ科、キク科、フジウツギ科の種子や果皮、樹皮が魚毒となる。
魚毒で魚を取るのは昔の話で、今はやってはいけません。電気ショック、爆弾、化学薬品など荒っぽい違法なことも、もちろん論外です。
漁法山椒の皮を剥いて乾かし、臼で搗き砕く。
• 砕いた粉末を、1貫(約3750グラム)につき木灰700匁(約2625グラム)の割合で混ぜる。
• 混合物を袋に入れ、河や池の水に入れ手で揉み解す。
• 水中に有毒成分が流れ出し、魚は毒に中り腹を上にして浮びあがる。